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黒い瞳
第6章 淳子~18歳~
ある夜、店に訪れた若林はいつになく無口であった。

いつも以上にグラスを空け、
途中、席を立ちトイレに駆け込みリバースした。

「健太・・・大丈夫?」
トイレから席にもどった若林の耳元で淳子は尋ねた。

ああ、大丈夫。
といいながらも若林の顔面は蒼白だった。

店が終わるまで、若林をカウンターの隅で休ませた。


「綾ちゃん、後片付けはいいから
若ちゃんを送ってあげなさいな」

ママさんの好意に甘え、
さあ、若ちゃん帰りましょ、と、
若林に肩を貸し店を後にした。


酔い覚ましに、
近くの公園のベンチに二人は腰掛けた。

若林はいくぶん酔いから醒めたようで、
自販機で買った水をガブガブ飲んだ。

「いったい今夜はどうしちゃたの?」

思いつめた顔をしていた若林は
「よしっ」と小さく気合を入れると、
淳子の前に回りこみ膝まづき淳子を見上げた。

そして、背広の内ポケットから小さな箱を取り出し、
箱のフタを開けながら淳子に
「結婚してください」とプロポーズした。

箱の中には小さなダイヤが付いた指輪が輝いていた。  

「こんなおじさんだけど、 淳子を愛する気持ちは誰にも負けないつもりだ。
幸せにすると約束する。結婚してください」


淳子の頬を涙が伝った。
そして、その涙は過去に何度も流した悲しみの涙でなく、
初めて流す喜びの涙であった。


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