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黒い瞳
第7章 淳子~19歳~
「はい、ひーひーふー。がんばって。
ひーひーふー」
ベテラン助産婦さんの
のんびりした声が分娩室に響いた。
『なにがひーひーふーよっ!
こんなに痛いなんて思ってもみなかったわ!』
力をいれても
なかなか我が子はでてくれそうにもない。
額から大粒の汗が流れる。
『まったく冗談じゃないわ。この子、健太に似てしぶといんだから』
「はい、ひーひーふー。
もう少しよ、そうそう頭がでてきたわ」
『うわあーっ!なんっていう痛さよ!は・や・く、でなさい!このっバカ娘!!』
若林はビルの陰に
バックアップの捜査員の姿を確かめ
アイコンタクトを取ると、
おかもちを手に提げハイツの中に入った。
犯人と接触し、注意を逸らさせているうちに
裏の窓からSATが侵入する作戦なのだ。
ドアの前に立ち、中の様子を伺った。
室内からは物音ひとつしない。
ドアホンを鳴らす。
「誰だ!」
苛立ちの声を荒らげて犯人が応答した。
「まいど~。食事をお持ちしました~。」
犯人を刺激しないように、間の抜けた声を発した。
「警察だろうが!」
「とんでもないですよ。 ほんとに食事を持ってきた近所のレストランの店員ですう~」
「カギを開けてやるから、ドアを大きく開けて姿をみせろ」
カチャというカギが外れる音・・・
若林はドアを大きく開けた。
犯人が人質のこめかみに銃口を当てている。
「なんか物騒っすねえ」
そう言いながら一歩踏み出した。
「動くな!メシをそこへ置いてとっとと帰りやがれ!」
『ダメだ・・・中へ入れない・・・』
言われるまま、おかもちを玄関内へ置き 立ち去ろうとしたそのとき・・・
パリン!ガラスの割れる音がした。
「くそっ!サツか?」
男が後ろを振り返り、女を自由にした。
『今だ!』
若林は中へ踏み込み、
人質の女の手を取り外へ連れ出そうとした。
「野郎!!」
若林の動きに気づいた犯人が振り返り、
犯人の銃口が若林を捉えた。