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女優
第5章 メイク担当の男

『ほんとに私をデビューの頃から
知ってくれているんだ…』

そう思うと何故か彼に
とても親近感を覚えた。


「憧れの愛子ちゃんの髪を
こうして触れるなんて幸せだなあ…」

そう言うと髪に顔を近づけて
クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


「いい匂いだ…」

いきなり髪の匂いを嗅がれたら
「変態!」と思うところだが
何故だか愛子は胸がときめいた。

聡は手際よくメイクを施してゆく。
まるで化粧筆が愛子の顔の上で
ダンスをするように…


「はい、完成」

いつの間にか目を閉じて
ウットリしていた愛子はその言葉で目を開いた。

鏡に映るその顔は
アイドル時代の仁科愛子であった。

「我ながら完璧だ」

聡は小躍りしながら喜び、
おもむろにスマホを取り出し

「写メ撮らしてもらっていいかな?」
と言い出した。


愛子としても
綺麗にメイクをしてもらったので快諾した。

アングルを変えて数回シャッターを切ると

「記念にツーショットを…」
と語尾を濁しながら催促してきた。

別段断る理由もないので
これもまた快諾すると
頬をピッタリと付けてスマホを構えた。


「ちょっとくっつきすぎですよ~」

「ほんとに?でもこうしないと
画面に入らないし…」

そう言いながら更に頬を寄せる。

ハアハアと荒い呼吸が間近に聞こえる…

『前川さん、興奮してる?』

そういえば画面の表情が少し強張ってるような…



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