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夜の蝶の物語
第5章 夜の蝶は羽ばたいて去ってゆく

「えっと…リリーさん?
もちろん源氏名ですよね?
本名をお聞かせください」

刑事が手帳を広げてメモの準備をしながら
リリーさんをジロジロと見つめました。


「はい…木村です。木村和美と言います」

本名を私たちに聞かれたくないのか
リリーさんはとても小さな声でそう言いました。


「では、木村さん、
吉井武人さんについて
知っていることをお聞かせください」

内緒にしておきたい本名なのに
刑事は部屋に響きわたるような大きな声で
「木村さん」と呼んだ。

「知っているもなにも、
吉井さんは月に一度だけ
私を指名してくれて
他愛ない世間話をするだけの関係でしたし…
あの…吉井さんに何か?」


そのようにリリーさんが反対に
刑事さんに尋ねると
一呼吸おいて、二人組の刑事のうち若い刑事が

「吉井さんは自殺を図り命を落としました」
と、
ほんとに事務的な口調でそう言いました。

スミレたちが驚いたぐらいですから
指名されて
懇意にしてもらっていたリリーさんの驚きは
半端ではありませんでした。

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