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夜の蝶の物語
第5章 夜の蝶は羽ばたいて去ってゆく
送迎車の助手席に座らせても
リリーさんは泣き止みません。
「家まで送り届けますから
住所を言ってください」
カーナビを操作しながら
稲本さんは尋ねました。
でもイヤイヤと頭を振るばかりで
らちが明きません。
「弱ったなあ…」
車を走らせながら稲本さんは困り果てました。
「落ち着いた場所で
少し横になられた方がいいですよ」
稲本さんは車を
ラブホの駐車場に車を滑り込ませました。
キングサイズのベッドに
艶かしい室内灯…
それがどこで何をする部屋かというのは
平常心を失くしたリリーでもすぐに気がついた。
「稲本さん…貴方って人は…」
親切な言葉を掛けてくれても
所詮、男は男…
よりによって
心痛で心が乱れているのをいいことに
こんなところに連れ込むなんて。
「稲本さん!バカにしないでください!」
リリーは稲本の頬をおもいっきり打った。
クリーンヒットだっただけに
稲本はよろけて片膝をついた。
「少し元気が戻ってきたようですね
でも、念のために少しだけ横になりなさい
大丈夫、リリーさんには指一本触れませんよ
少し休ませた方がいいと思ったので…
横になれる場所といえば
こんなところしか
思い浮かばなかった私が悪いんですけどね」