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夜の蝶の物語
第5章 夜の蝶は羽ばたいて去ってゆく
稲本は立ち上がると、
冷蔵庫から冷えたビールを一本取り出した。
コップにビールを注ぐと
「喉を潤しなさい。
適度なアルコールは心を落ち着かせてくれます」
そういえば喉がカラカラだった。
リリーさんはコップを受け取ると、
冷えたビールを一気に飲み干した。
「ショックだったわ…
吉井さんが自殺するなんて」
空になったコップを見つめて
リリーさんはポツリと呟いた。
「リリーさんを迎えにいった時に、
あなたを見送りに玄関に出てきた彼を
チラッと見かけましたが、
あの人、体が弱かったんじゃありませんか?
かなりやつれておりましたし…」
リリーさんを見送るときに手を振る彼の手が
痛々しいほど細かったのを稲本は記憶していた。
「あの人、糖尿を患っていて…
いつもは勃起しないのに
最後だというあの日だけ勃起して…」
思い出したのか、
リリーさんは涙をポロポロと溢した。
「彼は射精できましたか?」
稲本の問いかけにリリーさんは
「うん」と頷いた。
「そう…それは良かった…
きっと思い残すことはないと
自ら命を絶ったんですよ」
リリーさんの涙の量が増えた。
『余計に思い出させてしまった…
俺って、慰めるのが下手だな…』
会話すればするほど
ドツボに嵌まりそうな気がしたので
「さあ、横になりなさい」と
リリーさんをベッドに横たえた。
しばらくは目を閉じて
リリーさんはおとなしくしていました