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女流作家~君を愛すればこそ~
第1章 序章
だが、数々の小説を書くにつれ
桐子は疲弊していった。
桐子は仕事用の
高スペックのノートパソコンを閉じると
「はあ~…」とため息をついて目頭を押さえた。
「最近、無理してるんじゃないんですか?」
専業主夫の夫である晃が食器を洗いながら
カウンターキッチンの向こうから声をかけた。
「ううん、平気、平気」
桐子は努めて明るい声で返事をした。
夫の菱沼晃は女子大生だった桐子が
小説を応募した出版社の社員だった。
桐子の処女作が単行本化される時に
専属の編集担当となった。
忘れもしない、
あれは二作目を執筆中の事だった。
締め切りに追われてる時に
よりによって
桐子のワンルームマンションのエアコンが
故障してしまった。
「先生、急いでください。
入稿まであと半日ですよ」
急かされれば急かされるほど
暑さと苛立ちでキーボードから指が動かない。
菱沼晃も風通しの悪い部屋と
生ぬるい扇風機の風で汗だくになっていた。
冷却シートをおでこに貼り付けても
首筋に汗が流れ落ちてきて集中できない。
「これじゃあサウナで
原稿を書いているようなものです」
この部屋を出ましょうと
晃は桐子を近くのシティホテルに連れていった。
部屋は快適で、
汗ばんだ肌があっという間にサラサラになった。
おかげで無事に時間内に
書き上げることができた。