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夢の異邦人(エトランゼ)
第4章 バイトチーフの矢野くん
矢野くんは、
笑うと八重歯がのぞき、
まだまだ少年の面影を残していた。
矢野くんはアルバイトの学生で、
バイト歴も長く大牟田の信頼も厚かった。
「今日、浅香さんには
本磨きをしていただきます。
そんな暗い顔じゃ店内に出せませんもんね」
そんなに大牟田がいないことに
ガッカリした顔をしていたのかと、
有里は内心驚いてしまった。
「さあ、これが本磨き機です」
矢野に見せられた機械は、
パン屋に置いてある食パンを
スライスする機械のようだった。
「食パンスライサーみたいでしょ?
まあ、構造は似たようなものです。
ただ、カッターのかわりに
グラインダーが取り付けられてますけどね」
「グラインダー?」
「まあ、ヤスリのようなものです」
説明しながら矢野は機械のスイッチをONにした。
「ほら、こうやって本の
黄ばんだ淵をけずるんです」
一冊の本を手に取り、
回転するヤスリの円盤に本を擦り付ける。
そうすることで、黄ばんだ本の淵が
新書のようにきれいになってゆく。
「じゃあ、やってみてください」
そう言って、別の一冊の本を有里に手渡した。