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シャイニーストッキング
第20章 もつれるストッキング4     律子とゆかり
 162 リセット

 なぜなら、わたし自身もそうである様に、ほんの僅かでもいいから心の切り替えと身支度を整える時間が欲しかったから…
 ううん、いや、彼、大原浩一常務だってそうに違いない。

『はい、わかりました、では待ってます…』
 入江人事部長はそう応えて電話を切った。

「あ、そうか、入江くんからか?」
 すると、その電話の受け答えを聞いていた彼がそう言ってきた。

 このやり取りを聞いて、理解しているであろう彼に対してわたしは振り返り…
「…………」
 黙って頷く。

 それは少しだけ、いや、淫らな昂ぶりの醒めた自分自身の思いと想い、そしてこの自らの装いの姿に…
 つまりは乱れたブラウスとビリビリに伝線をしているこのストッキングを纏う脚が目に入り、さっきまでの淫らに昂ぶり、淫れ、乱れ、狂っていた己の痴態の姿が、もう一人の自分自身の俯瞰的な視点からの映像が一気に脳裏に浮かび上がり、恥ずかしくなってしまっていたから。

 そしてわたし自身の想いの象徴であるこのストッキングがビリビリに破れているこの脚を見られているという事実に、己の想いの乱れと淫れを見られてしまったという思いに…
 彼の目を見る事さえできないくらいに恥ずかしくなってしまっていたのである。

「うむ…そうだな…」
 だが彼は、そんなわたしの羞恥心いっぱいの心情をすかさず察してくれたのであろう…
 そう頷き、呟き、立ち上がり、ズボンをとりあえず履き、そして…
「トイレに行ってくる」
 そう告げて、常務室をサッと出てくれた。

 つまり、それは彼の優しさであり、大人の男、オトコとしての魅力の現れといえ…
 そしてわたしが愛した男としての魅力の価値観の表れともいえ…
 彼を、大原浩一を愛して良かった、間違いではなかったという想い、思いを再認識できた瞬間ともいえたのである。

 だからわたしは…
 その彼の魅力溢れる気遣いの思いのおかげで、なんとか心を切り替え、リセットできて、いつものわたし自身…

 そう、昼間のわたし…
 必死に凛とした佇まいを装っている、大原常務専属秘書然としたわたし…
 松下律子というオンナに戻れる事ができたのだ。

 そして新しいわたし…
 つまりは新しいストッキングを穿き直し…
 心を新たにする。

 いや、リセットできたのだ…



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