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シャイニーストッキング
第22章 ほつれるストッキング 1        佐々木ゆかり
 64 大原浩一(1)

「あぁ…」
 ゆかりはほんの一瞬、リビングを見回して、そう小さく呟いた。

「うん?」
 
「ううん、何でもないわ、行きましょう…」
 ゆかりはそう言って、また私の手を掴み、ベッドルームのドアを開け…
「………」
 一瞬、立ち止まる。
 
 私は、なんとなく、そのゆかりの様子に引っ掛かりを感じてしまう――
 
 いや、そのズレは、始めから…
 本当は、このマンション前から、ずっと感じていた。

 そもそも、わたしの律子に対する疑惑の追及、詰問をする為の、ゆかりの来宅である筈なのに…
 その様相が、全く感じられない。

 いや、あの宴会場での、あれほどの哀しそうな目すら見えないのだ――

 それよりも、律子の事なんて何もなかったかの様に…
 そう、それはまるで、あの頃の…
 まだ蒼井美冴が『黒い女』だった時の、激しい焦燥と嫉妬心により、何度となく待ち伏せしていた時の様な雰囲気すら、思い浮かばせてきていた。

 昨夜、美冴に…
『何とかしてあげるわ』
 そして、今夜…
『いいから、真っ直ぐ帰りなさいね』
 だから、このゆかりの来宅は予想し…
 それに、ある程度の修羅場になると覚悟までをもしていたのだが…
 このゆかりの目からは…
 穏やかな色が浮かび、見えていたのである。

 だが、それは、安心ではなく…
『違和感』そのものにしか、感じられない。

 逆に、それが恐かった――

 だけど、玄関ドアを開け、中に入った瞬間に…
 ゆかりの強張りが抜けたのを感じられ…
 私の衝動的なキスをも、すんなりと受け入れてくれ…
 自らベッドルームへと誘ってくれ…

 その恐さが、ゆっくりと、ほぐれてきていた――

『浩一さん』
 そして、そう呼ばれ…
 それは、ゆかりの心の緩みの言葉。

 微妙なズレが、消えつつあった――

 え、ゆかりは、私に抱かれに来たのか?…
 そう、思えつつあった。
 
 そして…
「ぁぁ……」
 ゆかりは、ベッドルームのドアを開けた瞬間に、そう、小さな声を漏らし…

「うん、ゆかり、どうした?」

「え…あ、なん…あ、ううん、あなた、浩一さんの匂いがする……」
 
「え、そうかなぁ、家政婦さんが掃除してくれてるから、そんなこ…あ……」
 その瞬間、私に抱き付き、唇を寄せてきたのだ…

 だが私は、そのキスに違和感を感じた――


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