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シャイニーストッキング
第22章 ほつれるストッキング 1        佐々木ゆかり
 112 帰ろう…

 とりあえず、帰ろうーー
 
 これが、今夜の、心にポッカリと穴が開いた、空虚な想いのわたしが出した答え…
 迷宮に深く落ち、迷い始めてしまったわたしには…
 この黒いストッキングが誰のモノなんかは、もうどうても良くなってしまった。

 そう、もう、どうでもよいーー

 思い浮かぶ、美冴さんと松下秘書の二人の存在は、理屈ではあり得ない…
 だったら、この黒いストッキングは、わたしの知らない、知り得なもしない、第三のオンナのストッキングといえるのだ。
 
 だからもう、答えの出しようがないーー

 諦めるのではない…
 考えない様に、するんだ。

 だって、もう、それしか方法がないから…
 これ以上、お互いに詮索したくはないから…
 だから、見なかったフリを、するしかないからーー

『とりあえず、帰ろう…』
 そして浮かぶ敦子の顔、いや、存在感。

 あぁ、敦子に逢いたい、慰めてほしい…
 わたしは、心から、そう思った。

「あ…」
 そして、浮かぶもう一人…
 それは松下秘書の顔。

 それも、健太や敦子、杉山くんと会話をしていた、あの、楽しそうな笑顔…
 きっと、あれが、本来の彼女の素顔なのだろう?
 そんな松下秘書の笑顔も浮かんできたのだ。

「え?」
 なぜ?…
 だけど、その答えは多分、分かってはいる。

 それは、敦子と松下秘書が似ているからだろう…

「……」
 いや、そう、想いたい。

 コト…ガチャ……
 その時、リビングの方で小さな物音が聞こえてきた。

 浩一さんが、シャワーから出たみたい…
 再び心が、複雑に騒めき、揺らいできた。

『帰ろう、帰らなくちゃ…』
 こんな複雑に揺らいだ心持ちで、彼とは話しをしたくはない、いや、浩一さんの、あの笑顔を見たくはない…
 つまらない詮索で、醜い自分の姿、心をさらけ出したくはない…
 不毛な言い争いをしたくはない…
 だから…
『帰らなくちゃ…』

 わたしは手にしている、黒いストッキングと、自分の脱いだストッキングを慌てて、また、壁際に放り…
 急ぎ、ブラウスを着る。

「…え、あ、帰るのか?」
 缶ビールを片手に、シャワーから戻ってきた浩一さんが、そう訊いてきた。

「え、あ、う、うん…」

 わたしは下を向き、ブラウスのボタンを留めながら、曖昧な返事をする…


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