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胡蝶の夢
第8章 夢
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麗らかな光。
僕は駆けていた。
真っ青な草原の中を風と共に駆け上がり、どこかへ向けて大きく手を振る。
「早く早く!!」
後ろを行く誰かへ向けて満面の笑みを浮かべ言う。
少し遅れて歩いて来る彼は優しそうな笑顔で手を振り応えていた。
「あんまり急ぐと転んでしまうよ?」
春の風よりも柔らかな彼の声は、僕の耳に心地良い。
僕は彼を慕い、実の兄よりももっと兄に近い存在に思っていたのを覚えている。
「圭【けい】、早く」
幼い日の僕は、懐かしい……いつかの彼の名を呼ぶ。
圭。
僕はその人をそう呼んでいた。
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