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胡蝶の夢
第8章 夢
「待てよっ!!」
呼んでも彼は止まらない…。
ふざけるな。
何が生きるためだ。
血の色に染まる両手をぶら下げて、圭を喰らって生きるだなんて言うあいつ。
それはもう鬼だ。
恐ろしい黒い化け物だ。
「待てっ…」
嗚咽するほどの感情が再び押し寄せた。
こんな理不尽な事があってたまるか。
そう…。
こんな事あってはならないのに、僕は何も気付けなかった。
どうして守れなかった?
背を向け歩いていく黒い小さな背中を目で追う。
誰が想像するだろうか?
あんな小さな少年がその手を赤く染める事を。
兄が義弟に殺される事を…。
いつだったか、圭が嬉しそうに言った。
「義弟がいたんだよ」と。
「瑞貴みたいに僕の後をちょこちょこ付いて来て可愛い奴なんだ」と。
僕は嬉しそうにそう言う圭を見て、少し嫉妬したりしたものだった。
それなのに…。
圭はその義弟に殺された。
黒崎圭の義弟…。
黒崎直弥。
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