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胡蝶の夢
第9章 華
嫌な記憶がよみがえる。
失敗ばかりの想世を見ていると、かつて何も出来なかった自分自身を見ている様で吐き気がする。
身を竦めた想世が恐る恐るこちらを窺っている。
伏し目がちなあの目。
何もかもすべてに自信を持てない者の目。
あの目を見ているとひどく苛立つ。
あの頃の自分の様だ。
まだこの屋敷に連れて来られて間もない頃の、幼く、親父を恐れ怯えていた自分。
くそっ…。
「不愉快だ…」
自分の声とは思えないくらいの苛立った声だった。
ビクリと肩を震わせて想世が目を伏せた。
……親父の口癖だ。
嫌いで堪らなかった『不愉快』という言葉。
それを今ではまさか、自分が口にしている。
腹立たしい。
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