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胡蝶の夢
第10章 心無いモノなら
僕はじっと寛継を観察した。
同じ手を二度くう気はない。
けれど、利用出来るものならば利用しない手はない。
口ぶりから黒崎家の使用人の中でも直弥に近しい者だという事が解る。
彼に取り入れば、何かしら黒崎の情報を得るのに役立つだろう。
「寛継…」
名を呼んで様子を窺う。
「なんでしょうか?」
隙無く表情を崩さぬままに寛継が答えた。
「いや…」
なんでもないと頭を振る。
この男から黒崎家を瓦解するのは想像以上に難しいかもしれない。
ただ一瞬の受け答えだけで、なんだかそんな気がした。
コイツが一番手強いかもしれない。
好意などはじめから期待していなかったが、それどころか嫌悪も侮蔑も敵意も感じられない。
感情自体が感じられない。
黒崎からヒト扱いもされていないような、こんな立場にある僕に呼び捨てにされても、眉根一つ、口の端一つ動かさない。
心を乱さず淡々と業務をこなし、主人の命の為には自分をも殺す。
まるで傀儡のようだ。
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