この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
胡蝶の夢
第10章 心無いモノなら
「主人の命令の為ならなんでもすると?」
そう質問すると、寛継は淡々と答えた。
「ええ、仕事ですから」
あまりにも業務的な返答。
まるでマニュアル通りに答えが決まっているように、平然と言う。
なんだかその答えが気にくわなくて、どうしてももうひとつ言って困らせてやりたくなった。
「じゃあさ、死ねって言ったら?」
寛継の眉が僅かに跳ねる。
重く響く『死』の響きが、言葉の中に鮮明に聞こえた。
自身が放った言葉なのに、その言葉の毒々しさに自身が一番ショックを受けている。
ここで黒崎の使用人に嫌がらせをしてみたところで、何の気も晴れない。
むしろ慣れない意地悪に居心地の悪ささえ感じる。
けれど、それでもやはり聞いてみたい。
彼がどう答えるのか?
きっと僕は性格の悪い顔で、寛継の反応を楽しんでいたのだと思う。
答えずらい質問を誤魔化すのに、必死に動揺を隠そうとする姿が見たかった。
黒崎への忠誠の浅さを窺いたかったのだ。
けれど一時の沈黙の後、寛継は悠々として言い放った。
「主人の命令ならば、喜んで…」
.