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胡蝶の夢
第10章 心無いモノなら
ボトルから綿花に消毒液を染み込ませると、寛継は拭う様に足裏に当てた。
「いっ…」
思いのほか傷口にしみる。
ここに来てからというもの初めてまともに扱われた気がするが、そもそもこれも黒崎の命令かと思うとなんだか複雑だ。
手元に目線を落とし消毒を続けながら、寛継は話し始めた。
「私は御主人様の為であればどんな事でもします。死ねと言われる事があれば死にましょう。けれど、直弥様は絶対にそのような事、私に命ずる事は無いでしょう」
「…ずいぶんと信頼しているんだね」
「長年お傍にお仕えしておりますから」
あの非道な男が一使用人をそこまで重要視するだろうか。
真っ赤なナイフを持った幼い日の黒崎がフラッシュバックする。
死に無頓着でないとあんな事は出来ない。
アイツが横暴な狂人でなければ、僕だって今こんな事にはなっていなかったろう。
「直弥様はとても繊細な方です」
「はぁ?アイツのどこが…」
「瑞貴様は直弥様の事がお嫌いですか?」
包帯を取り出し僕の足に巻きながら、相も変わらず淡々とした口調で寛継は言った。
「こんな所に監禁されて、連日酷いことされて、アイツを好きな訳があると思う?」
「けれど、直弥様は瑞貴様の事を御嫌いではないと思います」
何を言っているんだコイツは。
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