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胡蝶の夢
第2章 月
呻き声は地の底から沸き上がる死霊の声の様でした。
深い暗闇の向こうからそんなものが聴こえたならば、きっと誰もがそう思う事でしょう。
「ふぅ~…、ふぐぅぅうっ……」
獣の様な荒い呼吸。
何かがぬらりと蠢く確かな気配。
私は怖くなり、同時に後悔していました。
金属を引き摺るような音と湿った水音。
「おあああぁぁぁ……」
くぐもった声。
不釣り合いな程美しく、物悲しいピアノの演奏がさらに恐怖心を煽ります。
あまりの出来事に走り去る事も出来ないまま、私は凍り付き立ち尽くして扉の奥を見つめ続けていました。
やがて止まった時間が動き出したのは、私の目がその場の暗闇に慣れた頃でした。
私は死霊よりも恐ろしく、おぞましいものを見たのです。
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