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胡蝶の夢
第2章 月
「いいかい。目をつぶり、しっかりと耳を塞ぐんだ」
おとなしくなった私を見て、彼は手の拘束を解いてくれました。
動けないままの私の手を耳元まで運んでくれます。
しなやかな指でした。
「そしてゆっくりと数を数えるんだ。僕が次に君の肩を叩くその時まで、ずっとね……」
クローゼットが閉まる気配がします。
そしてしばらくして、ピアノの音が聴こえ始めました。
繊細で美しいけれど、どこか悲しげな曲。
防ぎきれない音はどんなに強く耳を押さえても溢れて聴こえました。
そのうちに、目をつぶり、耳を塞ぎなさいとの忠告も忘れ、私は目を開けてクローゼットの僅かな通気の隙間から彼を見つめる様になっていました。
いつしか彼のピアノに聴き入っていました。
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