この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
胡蝶の夢
第4章 檻
床に崩れ落ちた。
このまま地面に溶けて消えてゆけたらいい。
それが出来ないならせめて、僕以外のものの全てを醜く染めて欲しい。
そうしたら、醜いものたちの中で僕は埋もれ、沈んでいく。
この世に存在するものが全て漆黒だったなら、この世に光なんて灯らなかっただろう。
灯す必要がないから。
区別する要素さえはじめからなかったなら、優劣などつけようがない。
そうだ…。
染まれ…。
みんな黒に染まれ…。
ダンッ
冷えた床を叩いた。
少しづつ日が昇って来た。
夜が白けて窓から洩れる光が伸びる。
それはいつの間にか忍び寄り、僕の背中まで届いていた。
ダンッ
叩いても、ただ拳が痛むだけだ。
軋む身体が揺らぐ。
太陽は残酷だ。
何もかも照らしだす。
転がっていた万年筆に手を伸ばし、そっと引き寄せた。
母の形見の品。
それが僕を抉り苦しめたそれであっても、捨てることなど出来ない。
眠気に全てを委ね、意識を底に沈めた。
ズブズブと沈んでいく。
.