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胡蝶の夢
第6章 腐蝕
「……」
迷っているのか、また沈黙。
黙るのが好きな女だ。
すぐに歩むのを止めて目を背け、立ち止まろうとする。
きっと立ち止まってもどうにかなってしまうほどに甘やかされて育ったのだろう。
黙っていれば誰かがどうにかしてくれると。
自己表現も自己実現も出来ない個体など、埋もれて消えて当然だ。
それでも大切に守られてきたんだ。
保護するものがいたということか…。
僕自身に重ねてもあまりの差に胸がキリキリと軋み、同時に苛立ちに変わる。
実力がものを言う四兄弟の三男として生まれ、生まれたその瞬間から二人の兄と競う事を強いられた。
父は僕たち兄弟を競わせ、その実力を見極めていたのだ。
他の二人から抜きん出た何かを持たなければ埋もれていく恐怖に怯えながら、優秀な兄達に劣るまいとしてきた。
足掻いて自己主張をしなければ消されてしまう。
走り続けなければその場に留まる事すら叶わない中で必死に走った。
四兄弟の末子でありただ一人の女子。
僕の妹…。
思い浮かべてもやはり彼女は妹に重なる。
努力しなくとも、優れていなくとも、常にチヤホヤとされる女の特権。
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