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胡蝶の夢
第6章  腐蝕 







「…そ…よ」



オドオドした声は意外にもすぐ返ってきた。



「想世【そよ】…」



気付けば彼女の名を口にしていた。


それは、聞き取りにくい言葉を聞きやすく言い直したにすぎないもので、ほとんど無意識のうちに出たものだった。


ガタンッ…


扉の向こう側の動揺。


不吉な気配にざわりと空気が沸き立つ。


パリーン


破裂音と共に視界がぐしゃぐしゃに揺れた。


跳ね起きてとっさに動く身体。


重い扉の向こうに彼女がいる。


想世…。



「痛っ…」



ポタポタと飛び散る赤い血。


事態もわからずに目を丸くする彼女がそこにいる。


その目がゆっくりと僕を見上げた。


怯えた様な気弱な瞳に僕の姿が映る。


かつて花瓶だった破片たちの透明なガラスの飛び散った中に映える赤。


赤い花と真っ赤な血。


つぅと彼女の手から肘に血液が伝った。






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