この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
胡蝶の夢
第6章 腐蝕
「想世」
もう一度…。
まるで呪文のようにその名を呼ぶ。
強ばったまま動かない彼女は、呼吸さえ忘れて時間を止めたようだった。
一歩歩を進める度に響く水音と破片の砕ける音。
辺りが一層赤に染まっていく。
彼女の瞳には僕への軽蔑も同情も無い。
なんだか空っぽだ。
操り人形にふさわしい空虚な心と身体。
僕は彼女の元に跪くと腕を取って流れる血を舐めた。
汚い。
黒崎家の穢れた血。
それでもそうせずにはいられなかった。
何に突き動かされてそうしているのか、自分でもよくわからない。
きっと彼女の感情が見たかったのだと思う。
「あっ……」
吐息が洩れる。
それは熱く息衝いた人間のそれだ。
彼女の瞳を覗きながら丹念に血を舐め取る。
破片を拾い上げようとして切ってしまったのだろう。
手の平から指先から次々溢れ出てくる。
.