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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第2章 私は推しが好きすぎる
「だめですね……最後のホテルも空きがないみたいです」
 通話の切れたスマホを片手に項垂れる。ひとつくらいは空部屋のあるホテルがあるだろうと踏んでいたけれど、その望みは無情にも絶たれてしまった。これは本格的に困った。帰路にもつけない、ホテルにも泊まれないとなれば、あとはもう、漫喫くらいしか寝泊まりできる場所がない。
「……ん?」
 そこで気づいた。先輩の視線が、私に降り注いでいることに。
 いや、違う。彼は私じゃなくて、私の背後に見える遠い建物を見ていた。
 その眼差しはどこか、迷いに揺れた光を宿している。
「……椎名さん」
 松永先輩の顔も、どこか陰っているように見える。いつも屈託なく笑いかけてくれる朗らかな表情が、なぜか苦渋に満ちていて困惑した。
「どうしたんですか?」
 訳もわからず問い掛ける。先輩は躊躇したように口を噤んでしまったけれど、しばらく考え込んだ後、意を決したように口を開いた。
「ひとつ、提案があるんだけど」
「提案?」
「うん。でも、その提案を聞く前に言わせて。絶対に俺から変なことはしないから。誓う」
「え……」
 不穏な口調に少したじろぐ。
「……アレ、どうですか」
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