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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
 もわ……と熱気がこもるバスルームには、全面ガラスで囲まれたシャワーブースが、バスタブとは別の場所に設置されている。実家の浴室ほどの広さはないものの、ラグジュアリーな雰囲気を思わせる、おしゃれな空間に仕上がっていた。
 けれど、バスタブの縁にひっそりと置かれているローションボトルと避妊具の袋、そして壁に立て掛けられている大きなマットの存在が、ここがラブホテルだという現実を私に突き付ける。
 他にも泡風呂入浴剤が一緒に置かれているけれど、私がそのボトルを手に取ることはきっとない。このバスルームを使う人物が、私以外にももう1人いるからだ。彼の許可なくしては入浴剤を使えないし、使用許可を気軽に尋ねられるような親しい間柄でもない。
 ……そう。結局、ラブホの空室は1つだけだった。
「……どうしよ」
 なんて呟いたところで、どうしようもない事なのはわかってる。先輩と一晩、一緒に過ごさなきゃいけないのは、もう変えようのない事実だ。
 はあ、と重い溜め息が漏れる。ゆらゆらと揺らめく水面に、情けない顔をしている自分の姿が映っている。不安そうに表情を曇らせて、隠しようのない後悔の念を滲ませているのは───やっぱり漫喫に泊まればよかった、ではなく。もっと冷静になって帰る手段を考えればよかった……という後悔だ。
「……お父さんに、迎えに来てもらえばよかったな……」
 家族に連絡して迎えに来てもらう手段があったことを、今更思い出した。
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