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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
 ポカンと口を開いたまま、彼の言葉に頷く。此処なら誰にも気づかれないだろうと思っていたのに、私の安易な思惑は早々に見破られてしまった。
 知らない誰かが来たわけじゃないことに安堵しつつも、どうして先輩が此処にいるんだろう、という疑問は消えない。それと───『"やっぱり"此処にいた』って、どういう意味だろう。この人は私の行動パターンでも読めているんだろうか。
 呆然と彼を見つめていると、先輩は目元に微笑をたたえながら公園に足を踏み入れた。コツ……と控えめに靴音を鳴らす足取りは、あくまでもゆっくりとした歩みだ。
 近すぎず、遠からずな距離で立ち止まった先輩の腕には、見覚えのあるコートが抱きかかえられている。あっ、と思わず声を上げれば、先輩は困ったように眉尻を下げた。
「……外は寒いだろうと思って、上着を持ってきたんだけど。でも椎名さんの姿が見えないから、どこに行ったんだろうと思って。探したよ」
 確かに4月の夜は冷える。酔い醒ましといっても長居はできない。だからって、わざわざ上着を渡す為だけに私を探さなくてもよかったのに。先輩に手間を取らせてしまったことに申し訳なさを感じ、頭を下げる。
「すみません、わざわざ……ありがとうございます」
「風邪ひいちゃったら大変だからね」
 はい、と差し出されたコートを受け取った。
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