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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
「……松永先輩、寒くないんですか?」
コートで寒さを凌いでいる私とは違い、彼は仕事終わりのスーツ姿のままで何も羽織ってはいない。けれどこの場から立ち去る気配もなかった。
「平気。それより、椎名さんこそ大丈夫?」
「私ならコートがあるし、」
「違う、そっちじゃなくて」
「?」
「……さっきの話。辛そうな顔してたから」
全てを見透かしたような瞳が私を射抜く。言葉が詰まって何も答えられなかった。父親の話で盛り上がっている最中に逃げ出した私の意図を、彼はもう察しているみたいな言い方だった。きっと私が此処にいるのも、ただの酔い醒ましじゃないってことくらいは見抜いているんだろう。
思えばさっき、村山先輩からあだ名で呼ばれて萎縮していた私を救ってくれたのもこの人だった。周りをよく見てる上に洞察力も鋭いなんて、向かうところ敵なしじゃないか。彼が社内でモテる理由が、ただ顔がいいとか成績が優秀なだけではないことを、身をもって実感した。
「……誰だって嫌だよね。両親のこと、根掘り葉彫り聞かれてみんなの前で騒がれるのは。それが収入源の話なら特に」
「………」
「村山を庇うつもりじゃないけど、アイツ素直だから。凄いと思ったことには素直に凄いって称賛できる奴なんだ。それが裏目に出ることもあるけど……本当に悪意はないんだよ」
「わかってます。大丈夫です」
「……本当に大丈夫?」
「もう慣れてるので」
コートで寒さを凌いでいる私とは違い、彼は仕事終わりのスーツ姿のままで何も羽織ってはいない。けれどこの場から立ち去る気配もなかった。
「平気。それより、椎名さんこそ大丈夫?」
「私ならコートがあるし、」
「違う、そっちじゃなくて」
「?」
「……さっきの話。辛そうな顔してたから」
全てを見透かしたような瞳が私を射抜く。言葉が詰まって何も答えられなかった。父親の話で盛り上がっている最中に逃げ出した私の意図を、彼はもう察しているみたいな言い方だった。きっと私が此処にいるのも、ただの酔い醒ましじゃないってことくらいは見抜いているんだろう。
思えばさっき、村山先輩からあだ名で呼ばれて萎縮していた私を救ってくれたのもこの人だった。周りをよく見てる上に洞察力も鋭いなんて、向かうところ敵なしじゃないか。彼が社内でモテる理由が、ただ顔がいいとか成績が優秀なだけではないことを、身をもって実感した。
「……誰だって嫌だよね。両親のこと、根掘り葉彫り聞かれてみんなの前で騒がれるのは。それが収入源の話なら特に」
「………」
「村山を庇うつもりじゃないけど、アイツ素直だから。凄いと思ったことには素直に凄いって称賛できる奴なんだ。それが裏目に出ることもあるけど……本当に悪意はないんだよ」
「わかってます。大丈夫です」
「……本当に大丈夫?」
「もう慣れてるので」