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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
 自嘲めいた笑みが浮かぶ。ひねくれてる、と自分でも思う。いくら妬む人が多いとは言っても、マイナスな感情をぶつけてくる人ばかりじゃなかった。少なくとも、邪な感情で私に近づいてきた友人達はいなかったのだから。
「……なんて。被害妄想もいいとこですよね、すみません」
 胸の内を吐露したところで心が軽くなるわけでもなく、言い知れぬ羞恥の情が心の中を埋め尽くす。充分過ぎるほど贅沢な思いをさせて貰っている身分でありながら、こんな不満を漏らすなんて恥知らずもいいとこだ。明日生きられるか否かという瀬戸際で生きている人達だって大勢いるのに、彼らの前でも同じ弱音を言えるだろうか。
 こんな話を聞かされた方だって、きっと気分が悪いはず。叱られるか呆られるか、責められることを覚悟して身構えていた私に、先輩が放った一言は実にあっけないものだった。
「……椎名さんの住んでるところから、東京の夜景とか見れるの?」
 予想とは裏腹の、平和的な問い掛けに思考が止まる。はたり、と瞳を瞬かせる私を見つめ返す先輩の顔は、普段と変わらない優しさが滲んでいる。返事を促す声音に、私を咎めるような響きもなかった。
「……ん、と。リビングからは一応……見えます」
「へえ、すごいな。もしかして水道の蛇口とか、手をかざしたら自動的に出るタイプ?」
「あ、そうです」
「今流行ってるしね、手を触れずに……ってやつ」
「最近よくテレビで見るようになりましたね」
「椎名さんのご両親ってどんな人?」
「え、」
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