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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
 突拍子もない話題に触れられて言葉が詰まる。脈絡のない会話を繰り返されても、先輩の意図が全く読めないから戸惑ってしまう。私の両親の話なんて、聞いたところで楽しくないと思うけど……。
「……父は普通ですけど、母はかなり厳しい人でした。学業に関しては何も言わないけど、とにかくお金の管理には厳しくて」
「お金の管理」
 オウム返しのように先輩は繰り返した。
「はい。幼い頃から、母に口酸っぱく言われてきました。『親の金に頼るな、男の金に媚びるな、欲しいものも自分で稼いで買え』って。高校生の頃は、バイトを3つ掛け持ちしてました。途中から2つに絞りましたけど」
「掛け持ちはすごいね。アルバイトガチ勢だ」
 茶化されて、私もつい笑みをこぼす。
「私の家、ちょっと変わってて。家事ひとつひとつに金額が設定されてたんです。夕食を手伝ったら150円とか、浴室を掃除したら200円とか。子供っぽい真似かもしれないけど、ゲーム感覚で稼げるから楽しいんです」
 両親は、無条件で子供にお金を与えることを良しとしなかった。けれど一銭もないとなると、学校で必要なものすら買えなくなる。だから両親はこの方法を選んだ。お金は労働の対価なのだと、身をもって徹底的に叩き込まれた。
 家事をこなして得たお金自身も、元は父親が労働の対価として得たものだ。それに気付いた時、感慨深いものを感じた。結果として、お金の有り難みを学ぶに至る。
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