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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
「妬む理由がないからね。お金が欲しいなら働けばいい。それが本来の労働対価の形だし」
「……それは、私もそう思ってます」
 "苦労もせずにお金を持っている"人がいるとしたら、それはほんの一握りの人間だけ。大抵の人はずっと苦労している。実際に私は高校3年間、ずっとバイト三昧だったのだから。
 見当違いな嫉妬をする暇があるなら働けばいい。それすらもしないで私や家族を妬むなんて、お門違いも甚だしいとすら思っていた。実際に口に出すことはしなかったけど。
 だから───正真正銘、初めてだったんだ。自分と同じ考えを持っている人に出会ったのも。長年拗らせていた不満を理解してもらえたのも。
 すうっと心の霧が晴れていくのを感じた。
「……話せてよかった」
 無意識に、声に出していた。
 自然と頬が緩んだ。
「意外と可愛い悩みだったね」
 ぽんと頭に手を置かれて、くしゃくしゃと撫で回されて。可愛がられている気になって、私も無邪気な笑い声をたててしまう。
「意外ってなんですかー!」
「そのままの意味ですー」
 砕けた口調は心を開いてくれている証拠。それがまた嬉しくて顔が綻ぶ。───そうだ。あの日から、松永先輩は私の中で憧れの人になった。もともと憧れの情はあったけど、幼児のようにあどけない憧れでしかなかったのに。こんなにも心の底から惹かれ、心の内で慕うような愛しさを覚えたのも初めてだった。
 恋を憧れだと思い込んで、好きな人を"推し"だと呼んで誤魔化した。本当はもうあの日から、異性として好きだったのかもしれない───
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