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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い

◇ ◇ ◇


「……さん、椎名さん?」
 体が小刻みに揺れる。
 すぐ間近で、先輩の控えめな声が聞こえた。
「椎名さん、一旦起きて」
「……んー……?」
「寝るならベッドの中に入ってから寝よう? このままだと風邪ひくから」
 緩く肩を揺すられて、夢の底へ落ちかけていた意識が浮上する。いつの間にか閉じていた瞼を開けば、うすらぼんやりとした視界に松永先輩の顔が見えた。
 深く澄んだ瞳に見下ろされて、脳が一気に覚醒する。そして瞬時に現状を理解した。どうやらベッドで寝そべったまま、10分くらいうたた寝してしまったらしい。やばい、寝顔見られた……。
 ───いや、それよりも。
「……わぁ……」
 思わず感嘆の息が洩れる。バスローブを羽織っているだけなのに、神々しいまでに眩い先輩の姿に惚れ惚れした。湯上がりで上気した頬、肌にしっとりと張り付く髪を払う手、そして剥き出しな鎖骨に釘付けになってしまう。こんな場所に来なければ、絶対に拝むことなんて出来なかったであろう彼の出で立ちは、私の拙い妄想力を遥かに突き破るくらい、艶めいていた。
 急激に心拍数が上がる。一気に顔が熱くなった。社内で見るよりも2割、いや5割増しくらいで格好よく見えてしまうのは、プライベート姿の彼が新鮮に見えるから、だけじゃない。どうにも人は恋心を自覚すると、おかしな脳内フィルターが掛かってしまうらしい。
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