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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
「……気にしないでください。私も納得した上でここに来たんです。先輩を責めるつもりはないです」
 胸に淡い喜びが通う。こんなときに不謹慎だけど、やっぱり気にしてくれていたんだと知れば、心は安堵で満たされる。単純だけど、やっぱり好きな人から気に掛けて貰えるのは嬉しいんだ。
「……わかった。じゃあ明日も早いし、早く寝ようか」
「はい」
「言うまでもないけど、ラブホに泊まったことはみんなに内緒にしないとね。彼氏さんにも悪いし」
「……彼氏?」
 はたり、と瞬きを落とす。突拍子もなく返された一言に思考を止めた。
「あの、彼氏って何ですか?」
「何って……彼氏いるんだよね?」
「いませんよ」
「……え?」
「え?」
 互いに顔を見合わせる。重苦しい雰囲気が一掃した。噛み合わない会話に目をパチクリさせている私とは逆に、先輩は狼狽を顔に漂わせている。
「え、でも……村山が」
「村山先輩?」
 ますます意味がわからない。
「……村山先輩が何言ったのかは知らないですけど、彼氏なんてずっといませんよ」
 冗談でも何でもなく、私に恋人がいると先輩は思い込んでいたみたいだけど。でも私に彼氏はいないし、入社して以降、恋人がいた時期は一度もない。
「……本当にいないの?」
「はい」
 素直に頷く。息を呑んだまま唖然としている先輩は、例えるならば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔つきだ。その表情は徐々に曇り、やがて額に手をあてて重い息をついている。
「村山のヤツ……」
 忌々しげな呟きが室内に霧散する。
「……大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫。ごめん、今の話は無視して」
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