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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
「いえ……もう歯も磨いちゃったし。こんな深夜に食べたらまた太るから遠慮します」
「椎名さん、全然太ってないと思うけど。むしろ痩せすぎで心配。ちゃんと毎日ごはん食べてる?」
「食べてますよ! もう、保護者ですか」
「保護者だよ。ほら、もう寝るよ」
 先輩の手が布団を捲り、白いシーツをぽんぽん叩く。恐れていた瞬間がついに来てしまって、忘れかけていた緊張感が途端に全身を支配する。一緒のベッドを2人で共有する───ラブホに来る前に言われた先輩の言葉が、不意に脳裏に蘇った。
 手足がすくみ、心臓が破裂しそうなくらいドキドキする。凍りつきそうな両脚をぎこちなく動かして、布団の中にするりと潜り込ませた。
 ベッドの中は温かいはずなのに、指先が酷く冷たい。鳴り止まない鼓動が全身に響く中、先輩は布団を引っ張りあげて、私の体をゆっくりと横たえた。
 けれど、先輩が私の隣に来る気配はない。静かに立ち上がり、ソファーへと移動してしまう。ローテーブルに置いたノートパソコンを開き、おもむろにキーボードを打ち始めた先輩に唖然としてしまう。
「……先輩はまだ寝ないんですか?」
「うん。メールの確認したいし、見積書も作っておきたいから」
「え……?」
 その一言に目を見張る。見積書の作成は、本来私がやるべき業務だ。明日出社してからやろうと思っていた作業を、年次が上の人にやってもらうわけにはいかない。反射的に身を起こしてベッドから降りようとした私を、先輩は手で制した。
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