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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
 パソコンを直視していた彼の動きが止まる。視線だけで私を見てくれたのが、薄暗い部屋の中でもわかった。一拍置いて、ふっと吐息混じりの笑みを洩らす。
「……おやすみ」
 そっと眠りを後押しするような柔らかい声。優しいトーンに導かれるように、私もゆっくり目を閉じる。今寝たらまた寝顔見られるな……なんて頭の片隅で考えたのは一瞬のこと。押し寄せてきた睡魔に逆らえず、私はとうとう意識を手離した。





 ……それから、どのくらいの時間が経ったのか。
 体感的には多分、1時間程度しか経っていない。
 けれど突然、何の前触れもなく、私は意識を取り戻した。
 一度眠りについてしまえば、途中で目覚ることがないほど寝付きがいい私。なのに今日に限って眠りが浅かったのは、ここが私の住み慣れている寝室じゃないことに加えて、すぐ傍に好きな人がいるという異常な状態故の緊張感が、まだ完全に抜けきれていなかったせいかもしれない。
 目蓋はまだ重くて開けられない。
 夢と現の狭間を意識が彷徨っている最中、キィ……とベッドの軋む音が、やけに鮮明に鼓膜へと響いた。
「……椎名さん」
 不意に耳元で名前を呼ばれた、気がした。
 松永先輩の声だ。
 同時に彼の気配を、より近くで濃く感じ取る。
「……かわいい」
 甘い囁きが落ちた後、右頬に何かが触れた。じんわりと伝わってくる熱と柔らかな感触で、その正体が手のひらだと悟る。そっと包み込んでくれる感触が気持ちいい。
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