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社内の推しメン先輩は、なぜか私のことが好きらしい。
第3章 今更気付いてももう遅い
 人の温もりに触れて、うっすらと眠気がよぎる。頭の中がふわふわして、これは夢の中なのか現実なのかの認識ができない。
 いまだに意識が完全に這い上がっていない中、布の擦れる音や先輩の息遣いだけは、ちゃんと耳に捉えることができたけれど。
「……好きだよ」
 深い微睡みに落ちる寸前───胸の内に秘めた大切な想いを、そっと打ち明けるかのように紡がれた彼の言葉を受け止める。
「……せん、ぱい……?」
 ぼんやりと瞳を開く。薄暗い視界の奥に、私の様子を窺うように覗き込んでいる先輩が見える。真剣で、でもどこか切なげに揺れる目が、その途端、驚きで大きく見開いた。
「ッ、椎名さん、起きて……たの?」
 ……ううん、違う。これはきっと夢の中だ。松永先輩から告白されるなんて、誰もが羨むような展開が現実に起きるはずがない。ましてやそれが、私相手だなんて。
「ごめっ、俺、変なこと言って」
「……わたし、も、好きです」
「……え」
 無意識に言葉が口先から迸る。先輩がはっと息を呑む気配が、暗闇から伝わってきた。
 先輩に想いを打ち明けるつもりはなかった。
 恋愛も彼氏も欲する気持ちはなかった。
 先輩後輩の関係を壊したくなかった。
 でも、これは夢だから。
 現実じゃないから。
 だから、都合のいい夢を見るくらいは許されるよね……?
「……え……本当に?」
 その声にはまだ、疑わしさを問う響きがこもっている。先輩から向けられる疑念を晴らすように、私はコクンと頷いていた。
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