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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
「…禅さん…私…」
凪子の形のよい薄紅色の口唇が開かれる刹那、禅は何かを思い切るかのように小さく首を振った。
そのまま、傍らの欅の大木を見上げる。
そうして、ゆっくりと凪子を振り返ると、温かな笑みを浮かべた。
「…奥様、登って見られますか?」
「…え…?」
思いもよらぬ言葉に、凪子は長い睫毛を瞬かせた。
「木に登られたことはありますか?」
「い、いいえ。
ありません」
「気持ち良いですよ。木の頂上は。
…海が近くて、遥か彼方の沖まで見渡せます」
不意に興味が湧いた。
…けれど…
「でも…どうやって…」
禅が逞しい腰に装着されたままのランヤードを見せ、欅の幹から伸びているクライミングロープを引っ張った。
「このロープで登りますからご安心ください。
奥様のように軽い方なら、私と登ってもお茶の子さいさいですよ」
禅の戯けたような言い方は、初めてだ。
凪子は思わず吹き出した。
「…怖く…ないですか?」
おずおずと尋ねる。
「少しも。
…私が奥様をお抱きしながら登ります。ご安心を」
…さあ…
と、大きなブロンズ色の手が、差し伸べられた。
凪子はほんの僅か躊躇したが、やがて恐る恐る手を伸ばした。
禅はその白い手を取り、素早く凪子を横抱きに抱えた。
「…あ…」
男の胸に抱き込まれ、息を呑む。
…針葉樹のような薄荷の薫りと、微かな海の匂い…。
禅の黒々とした瞳が真近だ。
「…私を信じて…。恐ければお眼を閉じていらしてください」
「…はい…」
凪子は従順に男の胸の中で、そっと眼を閉じた。
凪子の形のよい薄紅色の口唇が開かれる刹那、禅は何かを思い切るかのように小さく首を振った。
そのまま、傍らの欅の大木を見上げる。
そうして、ゆっくりと凪子を振り返ると、温かな笑みを浮かべた。
「…奥様、登って見られますか?」
「…え…?」
思いもよらぬ言葉に、凪子は長い睫毛を瞬かせた。
「木に登られたことはありますか?」
「い、いいえ。
ありません」
「気持ち良いですよ。木の頂上は。
…海が近くて、遥か彼方の沖まで見渡せます」
不意に興味が湧いた。
…けれど…
「でも…どうやって…」
禅が逞しい腰に装着されたままのランヤードを見せ、欅の幹から伸びているクライミングロープを引っ張った。
「このロープで登りますからご安心ください。
奥様のように軽い方なら、私と登ってもお茶の子さいさいですよ」
禅の戯けたような言い方は、初めてだ。
凪子は思わず吹き出した。
「…怖く…ないですか?」
おずおずと尋ねる。
「少しも。
…私が奥様をお抱きしながら登ります。ご安心を」
…さあ…
と、大きなブロンズ色の手が、差し伸べられた。
凪子はほんの僅か躊躇したが、やがて恐る恐る手を伸ばした。
禅はその白い手を取り、素早く凪子を横抱きに抱えた。
「…あ…」
男の胸に抱き込まれ、息を呑む。
…針葉樹のような薄荷の薫りと、微かな海の匂い…。
禅の黒々とした瞳が真近だ。
「…私を信じて…。恐ければお眼を閉じていらしてください」
「…はい…」
凪子は従順に男の胸の中で、そっと眼を閉じた。