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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
「…私は…貴方を憎んでなどおりません…。
貴方は李人様の命令に従っただけです…」
…ただ…と、口唇を噛み締める。

凪子は寒さを感じるように我が身を抱いた。
「…堪らなく恥ずかしく、惨めなのです…。
…あんな…あんな姿を…貴方に…」
夫との性行為を見つめられるなど…そんなことは、普通はあり得ないことなのだから…。

「…奥様…」
禅は凪子を怯えさせないように、静かに語りかけた。
「…夜の閨で、私のことは旦那様の影だとお思いください」

驚き、男を見上げる。
「…影…?」

「…はい。
私は禅ではありません。
私は単なる旦那様の影です。
影は何もいたしません。
ただ、そこに居るだけです。
…旦那様の影に奥様のすべてを見られたとしても、気に病まれることは何もありません」
淡々とした語り口だが、そこには凪子への思い遣りと敬意が込められていた。

その言葉に、胸が熱くなる。
「…禅さん…」
優しい眼差しが、凪子を包み込んでいた。

…私…このひとと…キスをしたのだわ…。

あの夜の記憶が、幻のようにふわりと甦った。
…それは、まるで夢幻のような、儚く、朧げなものであった。
けれど確かに、あったのだ。

…なぜなら…

私のこの口唇が、覚えているもの…。

…熱く、切ない吐息と…

…それから…

禅を見上げながら、凪子は白く華奢な指先を己れの桜色の口唇にそっと押し当てた。

…禅の凛々しい眉が、苦しげに、微かに寄せられた。

「…奥様…」

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