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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
するすると、驚くような素早さとしなやさで、禅は凪子を抱いたまま大樹を駆け登る。

「大丈夫ですか?奥様」 
巧みにロープを引き上げながら、気遣う。

「…は、はい…。
大丈夫です…」
風で煽られないように凪子は桜草色のスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
そんな様子を、禅は優しい眼差しで見守る。
「では、そのまま私にしっかり捕まっていらしてください。
あと少しで天辺です」

凪子は黙って頷いた。
そのまま、禅の厚く引き締まった胸板に頬を寄せる。
…力強い心臓の鼓動が鼓膜に伝わる。
それはまるで子守唄のように、安心する音色だった。

凪子はそっと男のシャツ越しの筋肉質な厚い胸に触れる。
…規則正しい鼓動が凪子の白い指先にも伝わる。

凪子の背中を抱いていた禅の左手が一瞬びくりと動き、そのまま再び強く深く身体ごと抱き寄せた。

…まるで…

隙間なく、頑強な男の身体と密着しながら、凪子は思う。

…まるで…恋人同士みたいだわ…。

凪子の胸が甘く締め付けられる。

「…禅さん…」
咄嗟に口についた男の名前…。

…けれど…

次の瞬間、鬱蒼と繁る欅の若葉の間から突然視界が明るく開かれた。

「…着きましたよ」

陽の光の眩しさに、額に手を翳す。

「…ああ…」
思わず、ため息が漏れた。

…そこは、まさに別世界であった。


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