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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
凪子は禅に背後から抱きかかえられたままの姿勢に気づき、全身がかっと熱くなる。

「…あ…っ…」
思わず身動ぎしてしまい、バランスを崩しそうになった。
すかさず禅が逞しい腕で凪子の身体ごと抱き留める。

「急に動かれると危ないです」
「…ご、ごめんなさい…」
…そのまま、がっちりとした男の膝の上で大人しくしているほかはない。
禅の抱きしめる腕は強いが、邪まなものを感じさせるものではない。
ただ、大切に守るように恭しく凪子を抱きしめている。
けれど、その手や腕からは、微かな戸惑いや含羞の気配があった。

何となく流れる気恥ずかしさに気づかないように、凪子は暫く静かに美しい海の夕景を見つめていた。
禅もまるで凪子の心中を感じ取ったかのように無言であった。
それは決して居心地の悪いものではなかった。

…やがて…

「…家庭教師の方はいかがでしたか?」
ぽつりと禅が口を開いた。

「…間宮先生ですか?
明るくてお優しい方でした。
授業も分かりやすくて楽しくて…。
…あの…何か…?」

禅の雄々しい面差しに微かな思案が透けて見えた。
「…いいえ。
以前に一度お会いしたことがあったような気がしたのです。
…それで…」
凛々しい眉をやや不審な風に顰め…しかし、その後の言葉を続けようとはせずに首を振り、凪子を安心させるように微笑んだ。
「…いえ。私の思い違いでしょう」

「奥様が楽しいのなら何よりです」
そう呟くと、ひんやりし始めた潮風から庇うように、そっと凪子の肩を抱き寄せたのだった。

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