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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
…針葉樹の薄荷の薫りと海の匂い…。
着物の時は白檀、スーツの時は夜間飛行を纏わせている李人とは違う野性的な男の匂いだ。
凪子の胸が煩いくらいに鼓動を立てる。

…どきどきしたらだめだわ…。
禅さんは、李人様の影なのに…。
自分に言い聞かせるように、語りかける。

…と、その時…。

「まあまあ禅さん!奥様!
そんなところで何をしておられるのですか!」
地上から呆れたようなトキの声が響いた。
慌て下を覗く。

トキを始め、使用人の何人かが集まり、ざわざわと騒めきながらこちらを見上げていた。

「狡いよ!禅!凪子ちゃんとそんなとこでイチャイチャしてさ!」
桃馬の不機嫌そうな声が飛ぶ。

「…あ…」
凪子は眼を見張った。

…人垣の中には、李人がいた。
李人はまだスーツ姿のようで、長身のすらりとしたスタイルの良さは離れていても一目でわかった。

腕を組みながら欅の頂上を見上げ、李人は声を掛けた。
「禅。
私の大切な奥様を落とさないようにな」
その声は朗らかで、楽し気ですらあった。

凪子は李人に叱られるのではないかと危惧していたので、安堵しつつも、一抹の寂しさを感じた。

…李人様は…私が禅さんといても、嫉妬なさらないのかしら…。
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