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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
「…りひ…と…さま…」
掠れる声で絞り出す。

李人は素早く凪子を抱き起こし、自分の上着をさらりと脱ぎ捨てると華奢な肩に掛けた。

そうして、一瞬だけ強く強く凪子を抱きしめた。
…まるで、発作を起こしたかのように打ち震える凪子を安心させるように…。

「…李人さ…ま…」
涙を浮かべる凪子に、微かに優しく頷いて見せる。
李人はすぐさま立ち上がり、部屋の隅に転がっている間宮の元に近づくと、その襟首を掴み、立て続けに拳を奮った。

「…間宮。ふざけるな。
…よくも…よくも私の凪子を…!」
低くくぐもる声と、間宮を殴り続ける鈍い音。
そして、間宮の苦しげな呻めき声が聞こえてくる。

その光景を目の当たりにした凪子は恐ろしさの余り、がたがたと震え続けた。
…このまま…このまま間宮先生が死んでしまったら、どうしよう…。
自分が襲われたことよりも、李人の狂ったかのような暴力が怖かったのだ。
…李人様が、間宮先生を殺してしまったら…どうしよう…。

「…李人さ…ま…。
もう…やめて…ください…」
蚊の鳴くような声で叫び、李人の元にいざり寄る。

李人は間宮の胸倉を掴み、揺さぶる。
「なぜ、凪子に乱暴を働いた⁈答えろ!間宮!」

ぐったりしていた間宮が、力なく乾いた笑いを漏らした。
ふわふわした笑いは、やがて怒りを孕んだ声に変わった。
「…なぜ?
…それはこちらのセリフですよ。一之瀬先輩。
…貴方がかつて僕に命じたことを、奥様にして差し上げただけなのに。
なぜ僕がこんな仕打ちをされなきゃならないのですか?」
「…間宮…」
間宮は一瞬緩んだ李人の手を忌々しげに払うと、切れた口の端を乱暴に拭いながら、睨み上げた。

「だってそうでしょう?
あんたはあんたの恋人をまるでモノみたいに僕に与えた。
そうして、自分の目の前で僕と愛し合うように命じた。
…あんたの恋人は、あんたに捨てられたくなくて、従順にそれに従った。
自分を抱くように懇願したひともいた。
…だからあれはレイプじゃない。
あんたはそう言いたいのかもしれない。
けれどそれは違うよ。
…あんたはあんたの恋人たちを…そして僕を、精神的に踏み躙り、レイプしたも同然なんだよ…!」


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