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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「凪子さんは勘が良いですね。
もう高校1年生の数学はクリアしましたよ」
李人がテストを採点したのち、優しく微笑んだ。
「本当ですか?
私、数学は得意ではないので、自信がなかったのですけれど…」
満点の答案用紙を凪子に返しながら、李人は悪戯っぽい表情で囁いた。
「完璧です。
…というか、私もそろそろ解答書を見ないと正確には教えられません。
数学、割と苦手なんです。実は」
「…まあ…」
凪子はくすくす笑い出した。
李人が眩しげな眼差しで凪子を見つめる。
そうしてわざとつんとした表情を作った。
「…だから英語で挽回します。
そうだ。英語の授業では日本語禁止にしましょう。
上達するのが早くなりますよ」
凪子は慌てて首を振った。
「困ります!
私、本当に英語はずっとやっていなかったから…」
「冗談です」
澄ました貌をして英語のテキストを開く李人に、凪子は呆気に取られた。
「…もう…!」
二人は貌を見合わせ、吹き出した。
温かな空気がふわりと流れ、凪子の胸の中がじんわりと温る。
李人は相変わらず淡々としていて、べったりと凪子を甘やかすようなことはしない。
けれどもその言葉の端々や眼差しの温度や色は、明らかに以前より優しく柔らかくなっていた。

そっと凪子は思う。
…私のことを、心の底では憎んでいらっしゃるのは間違いないのだろうけれど…。
けれど、今の李人からは、あからさまな憎悪は読み取ることはできなかった。

授業の終わりに、お茶を飲みながら李人が口を開いた。
「来月、身内だけの披露宴を行います。
本当にこじんまりした会にしますので、気兼ねはいりません。
…貴女の幼馴染もぜひご招待なさい」
凪子は眼を丸くした。
「雄ちゃんを?…いいんですか?」
「もちろん。
学生でしょうから新幹線代などはこちらが負担します。
詳細はトキに言っておきますから、ご相談なさってください」

李人の細やかな心配りが嬉しい。
凪子は眼を潤ませて、李人を見つめた。
「…李人様。
…ありがとうございます」

李人はその切長の伶俐な瞳を見張り、一瞬だけ凪子の頬を優しく撫でた。

「…では、今日の授業はここまでにします」

あとは、いつもの淡々とした李人に戻るのだった。
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