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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「…披露宴、もうすぐですね」

窓辺のミニトマトを眺めていると、背後から穏やかな声が響いた。
はっと振り向くと、禅の優しい眼差しが凪子を見下ろしていた。

「…禅さん…。
ええ…。もう来週なのですよね」
あっという間に時間が過ぎてしまう。
披露宴…といってもこじんまりしたパーティだから気楽に…と言われてはいるが、李人が経営しているホテルや旅館の従業員や友人たちが来るらしいから、やはり緊張はする。

「旦那様に庭園の演出を頼まれました。
…私は無骨な男ですから、エレガントなパーティーの演出は苦手なのですが…。
…凪子様のために、精一杯務めさせていただきます」
律儀に頭を下げる禅は誠実さの固まりだ。

「…禅さん…」
…不思議なものだ。
禅は相変わらず、李人と凪子の性の営みには必ず立ち会う。
だから禅には凪子の恥ずかしい姿をすべて見られているのだ。
快楽に震えるからだや淫らな声や痴態も何もかも…。
…けれど、こんなふうに普通に会話をするだけで、どきどきしたり胸が甘く締め付けられるのは、なぜだろう…。

「…ありがとうございます」
その気持ちを抑えて、伏目勝ちに礼を言う。
「お衣装は?お着物ですか?それとも?」
庭園をデザインするのに必要な情報なのだろう。
禅は熱心に尋ねてくる。
「ドレスらしいのですが、トキさんは何も教えてくれないんです。
秘密です…て」

禅は小さく笑った。
「トキさん張り切っておられましたよ。
…トキさんは奥様が可愛くて仕方ないようですよ。
あんなにお綺麗でいじらしい方はいないといつも自慢げに仰います。
…一見冷たそうに見えますが、トキさんはとても情の厚い方ですから」
凪子は素直に頷く。
「ええ。そう思います」
トキは言葉は少ないし表情も硬いが、何気ない態度で優しさを示してくれる。
最近は凪子にそっと李人の色々な話をしてくれるのが嬉しい。
トキに認められてきているのだと思うとほっとする。

…ふと、禅が口を開いた。
「披露宴には私の母も参ります」
「禅さんのお母様が?」
凪子は大きな瞳を見開いた。
「…確か…」
「ええ。母は旦那様の乳母でした。
旦那様が大学に入学されたのを機に、故郷の長野に戻って暮らしていたのですが…。
旦那様にご招待頂いたから…と」

…それから、なんでも旦那様に折り入ってお話があるとか…。
禅は少し怪訝そうに付け加えた。
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