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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「…まあ、母も旦那様にお会いするのは久々だから積もる話もあるのでしょう」
そう言って微笑んだ。
…そして、
「母は奥様のことを尋ねてきましたよ」 
悪戯っぽい眼差しで凪子を見た。

「まあ…」
凪子は急にそわそわする。
禅が何と答えたか、それが一番気になる。

「どんな方なのかとか色々と…。
…見惚れてしまうくらいにお美しくてお淑やかで気品があってお優しくて聡明で…とにかく素晴らしい方だと伝えました」
「ほ、褒め過ぎです…!そんな…」
凪子の白い頸が桜色に染まる。

「…本当のことです。
私はいつもそう思っていますよ」
夜の深い海の色の瞳が、凪子を包み込むように…やや熱を帯びて見つめている。
「…奥様のようにお美しい方を、私は初めて拝見しました。
…今も奥様の前に立つと、平常心を保つのに精一杯です。
貴女を見ると、自分が自分ではなくなるような気がするのです…」
微かに苦しげな声を、彼は漏らした。

「…そんな…」
禅の瞳から、眼を離すことができない。
身体が震えるほどに嬉しいような、けれど一方ではぞくりとするほどに空恐ろしいような…甘く狂おしい感情がじわりと押し寄せる。
この感情は…きっと、安易に名付けて良いものではない。
…それだけは、凪子に分かるのだ…。


「…なんだよなあ…。
いい雰囲気出しちゃってさあ」
離れたテーブルから桃馬が不機嫌そうに凪子と禅に文句をボヤく。

「…あれは禁断の恋の匂いがするわあ…。
…美しくもエロい大人の恋の嵐の予感ね…」
ケンが唸る。
「やめろよ!ケンちゃん!」
ムクれる桃馬の頭をヨシヨシしながら
「…こりゃ、リーくんも大変だわねえ…」
首を振ったのだった。




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