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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「初めまして。大原雄大です。
招待してくださってありがとうございます」
折り目正しくお礼を言ったのち、
「…でも、あんなにいただく訳にはいきません。
あとでお返しします」
ときっぱりと言った。

李人は切長の美しい瞳に笑みを浮かべ、
「では、良かったらその費用で私の旅館に泊まっていただけませんか?
…凪子も折角大原さんとお会いできたのですから、色々と話したいこともあるでしょう。
ちょうど連休ですし、二、三日泊まって凪子と積もる話でもなさってください。
…生憎この辺りは鄙びた漁師町で、観光していただけるような華々しい名所はないのですが、ゆっくり景色を楽しんでいただいて、温泉に入っていただくことはできますので」
と、鷹揚に大人らしく提案した。

「…はあ…」
断る理由はなくなり、雄大は思案顔になる。

凪子は思い切って雄大にねだる。
「雄ちゃん、そうして?
私、雄ちゃんとゆっくり話したいわ。
…庵主様のお話も聞きたいし…。
尼寺の皆さんはお元気かしら?」

厳しく育てられたとはいえ、庵主は恩人だ。
優しくされたことはなかったが、凪子が今、李人のもとに嫁いでも恥をかかずに過ごせているのは、庵主が行儀作法や言葉遣いは元より、様々な教養なども身につけさせてくれたおかげだからだ。
何より捨て子で孤児の凪子に衣食住の不自由をかけたことは一度もなかった。

…それに、庵主は凪子が高遠当主の愛人の娘だということを知って、育ててきたらしいこと…。
そのことも、雄大は何か知っているのではないか…。
この機会にじっくり聴いてみたかったのだ。

「…分かったよ、凪子」
雄大は凪子を安心させるように頷いた。
そうして、李人に向き直ると、しっかりと眼を見て告げた。

「それでは二、三日お世話になります。
よろしくお願いします」
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