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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「結婚?そんな馬鹿な…!」
李人が慌ただしくソファから立ち上がる。
乱れた気持ちを抑えるように大股で歩き出し、マントルピースの壁に無造作に寄りかかる。
そうして、燕尾服の上着の胸ポケットから外国煙草を取り出し、せっかちな仕草で火を点けた。
…李人が煙草を吸うことを凪子は初めて知った。
そして、本来の彼ならば、断りもなしに喫煙することなど有り得ないことも…。
そのように他人を気遣うマナーも体裁も何もかも忘れた李人を初めて見るのだった。

いとは李人を思い遣る眼差しのまま、お伽話を紐解くかのように、話を続けた。

「…雪乃様は由緒正しい良いお家柄のご出身でしたが、あまり裕福ではないお家でいらっしゃいました。
雪乃様が、とあるお茶席のお手伝いをなさっていた際に、泰彦様とお出逢いになられたそうです。
雪乃様のお美しさに一目惚れなされた泰彦様はすぐさま恋に堕ちられ…それは雪乃様も同じでした。
泰彦様はそれはそれは見目麗しく素晴らしい紳士でいらしたからです」

優しい視線を、いとは凪子に送る。

「…けれど、お幸せな時間は長くは続きませんでした…。
なにしろ泰彦様はかの高遠一族を統べるご本家の若きご当主様です。
もう既に、内々にご結婚相手も決められていたのです。
…いわゆる政略結婚でございます。
そのため、雪乃様との交際はおろかお二人のご結婚はお身内の中だけでなく周囲からも大反対され、お二人は泣く泣くお別れになられたそうでございます」
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