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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「…優しかった旦那様は、人が変わったように雪乃様に冷たく厳しく叱責するようになりました。
雪乃様の不貞を疑い、まだ赤ちゃんでいらした李人様のDNA検査をすると言い出したのもその頃です。
…もちろん、李人様は旦那様のお子様です。
その結果も明白に証明されました。
けれど、否定されればされるほど、旦那様は疑心暗鬼になってしまわれました。
雪乃様に、いつから自分を裏切っていたのだと毎日毎日問い詰められ…。
暴力こそ振るわれませんでしたが、その嫉妬と執念は凄まじいものでございました。
私はあまりに雪乃様が不憫になり、高遠様に現状を訴えました。
すると高遠様が旦那様に会いに来られ…頭を下げられてこう仰ったのです。
『雪乃さんには私が言い寄り、しつこく口説いたのです。
雪乃さんは社交辞令で応じてくれたに過ぎません。
もちろん、男女の関係もありません。
彼女に一切責任はありません。
もう二度と雪乃さんには近づかないと誓います』…と。
高遠様は身を挺して、なりふり構わずに雪乃様を庇われたのです。
…そうして表向きは、一旦は元のご夫婦関係に戻られたかのように見えました。
旦那様は、雪乃様をそれはそれは愛しておられましたから、手放されるおつもりはなかったですし、もちろん離婚など考えもつかなかったでしょう。
けれど、旦那様はやはり雪乃様が高遠様を愛しているのではないかと言う疑いからは逃れられなかったのです。
…旦那様は次第に精神的に不安定になられたのです…」

李人は端正な眉間を苦しげに寄せ、暗い声を漏らした。
「…だから父は、私にことあるごとに高遠氏の卑劣な振る舞いを植え付けるように言い続けたのか…」

「…そうです。
旦那様は高遠様に怒りをぶつける他に、お気持ちの持っていきようがなかったのでしょう…。
だからまだお小さい李人様にまで…。
あれは余りに酷いお振る舞いでした。
雪乃様もそのことにずっと苦しんでおられました。
…けれど雪乃様はなんとか旦那様との仲を修復しようと、ずっと涙ぐましい努力を続けてこられました。
すべては李人様のために…。
『李人には温かな家庭で育って欲しいの…。
私のことなど、どうでも良いの…』
…雪乃様はそうおっしゃって、寂しそうに微笑まれていらっしゃいました…」

…そんなにも、耐えていらしたのに…。

いとの声は、か細く震えていた。
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