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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
トキの器用な手により、髪をクラシカルに巻かれ、化粧も丹念に施された。
少し時代掛かった古風なその髪型と化粧は、優美な凪子の美貌によく似合った。
トキは無愛想だが、凪子の美しさを引き出すことに熱中しているようでもあった。

「…さあ、凪子様。
こちらでございます」
そののち、凪子は慇懃に大広間に誘われた。

…開け放たれた縁からは、見事な月見台や築山、広い池まで造り込まれた広大な日本庭園が臨めた。
分けても、月見台の側に植えられている見事な枝ぶりの枝垂れ桜は圧巻であった。
広間から見る、今を盛りに咲き誇るその桜は、優雅な一枚の日本画のようだ。

富裕な京都の趣味人の家でも、ここまで完璧に設計され、風雅で尚且つ格調高く造られた和の庭園は珍しい。
当主の李人が旅館やホテルを経営しているから…なのだろうか。
凪子は密かに考えた。

広間の一段高い上座には、既に李人が座っていた。
凪子の姿を認めるとその美しい瞳を一瞬見張り…やがて優しく微笑んだ。
トキに誘われるままに、緊張しながら李人の隣りに座り、眼を上げる。

…たくさんの使用人と思しき人々が正装した姿で、ずらりと居並び平伏に近い形で座っていた。
その光景は圧巻であり、微かに異様なものとして凪子には感じられた。

李人は大広間を見渡し、端麗な眉を顰めた。

「桃馬はまだか?」

傍らのトキが声を潜めて告げる。
「恐れながら、まだお見えではございません。
学校からはご帰宅なされたようなのですが、どちらを探してもいらっしゃらず…」
当惑したような表情は、まるで実の祖母が孫を案じるそれだ。

「…全く、困ったものだ。
今日は遅れないようにとあれほど言っておいたのに。
相変わらずの我儘ぶりだな」
李人が苦々しくため息を吐く様子は意外だ。
凪子と眼が合うと、李人は微かに苦笑いした。

「桃馬という弟がいるのですが…。
なかなかの反抗期でね。
まあ、いいでしょう。その内、現れるでしょう。
…さあ、凪子さん。それでは、我が一之瀬家で働いている者たちを、ご紹介いたします」
李人はそう言って、再び柔かな笑顔を見せたのだ。





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