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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
…家政婦のトキを筆頭に、家令、李人の秘書、数人の女中、厨房の料理人、運転手…と、使用人の紹介は、澱みなく続けられた。
沢山の人々を前に、凪子は緊張し、誰が誰やら分からない状態だった。
こんなにも大勢の見知らぬ人々に見つめられることなど初めての経験だからだ。

…そして最後に、紹介されたのは…

「…庭師の岩田禅です」

最後列にひとり、影のように密かに身を置いている男がいた。

…黒の縞の着流しに身を包んだその男の容貌は大変際立ち、異質とも言えるものだった。
その逞しい肉体をした男は、そのいで立ちや雰囲気からして、さながら隠密の侍のようだった。

男は漆黒の長い髪を無造作に後ろに束ねていた。
浅黒い肌、野性的な眉、彫りの深い野生的な目鼻立ちは日本人離れしていて、どこかスラブ人のような容貌でもある。
凪子は思わず、その男に惹きつけられるように見つめた。

…凪子と視線が合うと、彼は微かにその猛禽類のように鋭い眼差しを見張り…しかしすぐに慎み深く眼を伏せた。

「…禅は私の乳母の息子…つまり、乳兄弟です。
幼い頃からずっと私の傍にいるので、兄のような親友のような存在なのです。
今は庭師としてこの家や旅館、ホテルの庭仕事や造園を一手に引き受けてくれています」

李人の説明に、男…禅は深々と頭を下げた。

「…凪子様。よろしくお願いいたします」
低く、微かにハスキーな声が聞こえた。

周りの年若な女中たちが、そわそわしたように禅を見つめていた。

「…こちらこそ、よろしくお願いいたします」
おずおずと、凪子も頭を下げた。

禅はゆっくりと頭を上げると、一瞬だけ凪子を眩し気に見つめ、やがて素っ気ない動作で視線を外した。

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