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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
大客間は再び、張り詰めた雰囲気に満ち溢れた。
トキが苦しげに視線を落とした。
彼女は全て知っていたのだろう。
李人は何かに耐えているような痛ましい表情を、その端麗な横貌に浮かべていた。
「駆け落ち!?
で、でもさ、俺が生まれたってことはさ…」
桃馬が戸惑うように尋ねた。
「はい。すぐに旦那様が追いかけてこられました。
旦那様は血眼になって雪乃様を探しておられたのです。
…それはもう夜叉のような…恐ろしい形相でいらっしゃいました。
雪乃様を渡さないなら、家にいる李人様を殺し、自分も死ぬと」
李人が息を呑み、瞼を閉じた。
「…何ということだ…」
禅によく似た温かな…けれどどこか哀惜の眼差しで、いとは李人を見上げる。
「李人様。
雪乃様は、駆け落ちされる時に李人様も連れて行きたいと私に訴えられました。
私は李人様を連れ出す手筈を、密かにトキさんと整えていたのです」
トキが黙って頷いた。
…けれど…
いとはまるで今、まさに起こったことのように哀しげに肩を落とした。
「…お二人が駆け落ちすることはありませんでした。
旦那様の異常とも言える執着と激昂に、雪乃様が諦められたのです。
…このままだと、李人様の命が危ないと…。
そして、高遠様にも必ずや危害が及ぶに違いない…と…」
トキが苦しげに視線を落とした。
彼女は全て知っていたのだろう。
李人は何かに耐えているような痛ましい表情を、その端麗な横貌に浮かべていた。
「駆け落ち!?
で、でもさ、俺が生まれたってことはさ…」
桃馬が戸惑うように尋ねた。
「はい。すぐに旦那様が追いかけてこられました。
旦那様は血眼になって雪乃様を探しておられたのです。
…それはもう夜叉のような…恐ろしい形相でいらっしゃいました。
雪乃様を渡さないなら、家にいる李人様を殺し、自分も死ぬと」
李人が息を呑み、瞼を閉じた。
「…何ということだ…」
禅によく似た温かな…けれどどこか哀惜の眼差しで、いとは李人を見上げる。
「李人様。
雪乃様は、駆け落ちされる時に李人様も連れて行きたいと私に訴えられました。
私は李人様を連れ出す手筈を、密かにトキさんと整えていたのです」
トキが黙って頷いた。
…けれど…
いとはまるで今、まさに起こったことのように哀しげに肩を落とした。
「…お二人が駆け落ちすることはありませんでした。
旦那様の異常とも言える執着と激昂に、雪乃様が諦められたのです。
…このままだと、李人様の命が危ないと…。
そして、高遠様にも必ずや危害が及ぶに違いない…と…」